脳卒中後遺症×ピラティス

※少し専門的な話になりますが、目を通していただけると嬉しいです。


私が社会人1年目の時、回復期リハビリテーションセンターに在籍していた時に担当していた患者様のSさん。

当時は50代という若さで“左被殻出血”を発症されました。

その主な後遺症として、右半身運動麻痺、感覚障害、失語症を抱えることに。

脳のMRI画像より、内包への浸出よりもブローカ野への浸出が大きかったのを記憶しています。

この時点で運動麻痺は軽度ではないか? と予測を立てたのですが、つまずきました。

感覚機能が、表在覚、深部覚ともに重度鈍麻だったのです。

当時の私は大変苦戦しました。
様々な方法を試し、どの感覚刺激ならインプット、フィードバックされるのかを探る毎日でした。

幸いにもSさんの場合は血腫の吸収が手伝って、少しずつ感覚を取り戻されたため徐々に随意運動が可能となられました。

運動麻痺というよりも、重度の感覚障害によって運動コントロールが困難となっていたと考えられます。

そんな経過のSさん。

約1年前にSさんからご連絡をいただく機会があり、それと私の依頼とが合致し、Sさんにピラティスを体験していただけることになりました。

その時の記録をご紹介させていただきます。

この時、Sさんは発症から約5年が経過しています。

左:ピラティスbefore
右:ピラティスafter

片脚立ちをしてもらいます! と私が言うと、「えー、できるやろか。怖いわ。できひんと思うわ。」とSさん。

いざとなれば私が支えます。絶対転かしません。を条件に、協力してくださいました。

《非麻痺側で片脚立ち》

開始前から右上肢の位置に変化がみられます。
beforeでは連合反応で麻痺側上肢屈筋群の筋緊張が高まっている状態ですが、afterではその筋緊張が緩和されています。

さらに、支持基底面のとり方にも変化がみられます。
beforeよりもafterの方が支持基底面が小さくなっています。
これは、支持基底面を狭くしてもバランスがとれるようになった証です。

そしていざ片脚立ち。
麻痺側下肢の上がり具合に変化がみられました。
beforeよりafterの方が高く足をあげられています。
さらに、姿勢制御(立ち直り反応)が出現しました。

脳卒中後遺症の方は姿勢制御が難しくなるため、重心を支持基底面内に留めておく戦略を無意識的に選びます。

なぜか。
重心が支持基底面から外れてしまうと、そこから立ち直ることができずに転倒するリスクが高いからです。

身体の自由度を下げて、安定性を求めるのです。

まさに、ピラティスbeforeのSさんはそのような姿をされています。
できるだけ動きを小さく、ガチッと身体を固めている状態です。

ですが、このピラティス後のSさんは麻痺側下肢の自由度が向上した上に、体幹をコントロールしながらバランスを保つこと(姿勢制御)ができるようになりました。

《麻痺側で片脚立ち》

beforeでは、“麻痺側で立つ” と考えただけで身構えてしまい、より一層連合反応が強まり、右上肢屈筋群の筋緊張が高まっているのが確認できます。
連合反応の出方がこんなにも変わるのだと、私自身も驚きました。

ですが、afterではその連合反応も抑制されているのが見てとれます。見事な変化です。

そして片脚立ちの保持時間もわずかながらに伸びました。

これは、筋力が向上したというよりも感覚フィードバックとそれに伴う体幹のコントロールが可能になったことによる結果であると思われます。

ご本人も私も喜びの表情です。

ピラティスでは、随意運動の獲得は難しいかもしれません。

ですが、このように連合反応を抑制させることで随意運動のコントロールを改善したり、姿勢制御(バランス機能の向上)を可能としたり、身体の自由度を向上させることはできるのではないかと考えています。

つまり、使えなかった手が使えるようになる とまではいかなくても、

歩きやすくなる、転けにくくなる、拘縮が防げる、といった効果は得られるのではないかと思うのです。

脳卒中後遺症に悩む方にも、ぜひピラティスを体験していただきたいものです。

届けてみたいです。

緊急事態宣言発令を受け、当サロンはしばらくの間受付を停止しております。
皆さまにはご迷惑をお掛けしており、本当に申し訳ございません。

そんな休業中。

ピラティスの可能性を確かめに行くのもいいかもしれませんね。

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